2010年7月10日土曜日

サカマタの記





 いつか遭えるだろうという予感は持ち続けていた。だが、予感の時があまりにも長かった。択捉島で一瞬だけ目にしたあの三角。海面に誇らしく突き出されたシャチの背びれ。

 雨をついて出向した「エバーグリーン」のアッパーデッキで、「今日もダメかな」と弱気になった頃、隣で海面を見張っていたSさんが低い声で、しかしはっきりと船長へ伝えるのが聞こえた。
「シャチ。11時30分。距離0.5マイルくらい」と。
目を凝らしてみる。だが、見えない。
船はそれほど速度を上げることなく近づいていくだが、シャチの群れも同じくらいの速度で遠ざかっているらしく、なかなか姿をとらえることができない。
 結果的に5分ほど追尾してやっとブローが見えるようになった。さらに数分後、ジャンプする姿もとらえられるようになった。
 それからは、船はほとんど停止しているのだがシャチの方から近づいてきたり、船底をくぐり抜けたりし始め、存分に遊んでくれた。
 それにしても、シャチはなぜわれわれを惹きつけるのだろう。レプンカムイと呼ばれる。神秘的な存在として扱われることも多いし、その気持ちもよくわかる。いろいろな思いが一気に吹き出したシャチとの出会いだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿