2008年12月20日土曜日

流星への旅















 列車を降りて駅頭に立った。

 ほどなく彼女は現れた。以前と同じグレーの軽乗用車を運転している。
 一緒に昼食をとった後、二時間くらいかけて松本市へ向かう。松本城は見学者の数も多くなく、冬空とアルプスを背景に落ち着いた佇まいを見せいてた。







 同級生の消息や思い出話をしながら城の掘り割りを巡り、天守閣に登ってみた。楽しそうに語らいながら観光地を巡る僕ら二人は、周りからどのように見られただろう。
 親子か、不倫のカップルか?
 彼女は、そんなことを意に介そうともせず、嬉々として、日常のあれこれの話を聞かせてくれた。
 信州の精密機械工場で派遣社員として働いている彼女。地元の大きな事業所に就職したけれど、小さなきっかけで順調な路線を踏み外し、辛くも踏みとどまって今、一生懸命働いている。
 派遣労働者の置かれている厳しい現状が心配で、信濃路まで来た。現在の状況と彼女自身が考えている今後の見通しを聴いて、一応の安心感は持った。それだけでも来た甲斐ががあった。

 しかし、本当に励まされ、元気づけられたのは僕自身であったと思う。屈折した感情を持て余し、鬱々とした日を過ごしていた僕が、彼女の顔を見て、とりとめのない話をするうちに、心が洗われたようにすがすがしい気持ちになっていくのが、自分ではっきりと意識できた。
 僕は、自分で自分のバランスを保つために、はるばる信濃の国まで彼女を訪ねてきたのだ。
 ひとは、それを馬鹿げた行動と評するに違いない。だが、そのように行動した自分を、もう一人の自分が肯定している。そのような存在、追い詰められた時に自分を救ってくれる存在がいること。そして、そのことを自分でわかっている、ということは、どんなにすばらしいことか。

 何か、一回り強くなって、明日に向かうことができそうな気がしてきた。


 今回の旅は、とてもスッキリとした、佳き旅になった。

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