8月1日(土)
「たいちょう」自らが操船する19トンの漁船は静かな海を岬を目指して進む。舳先に立って海面を眺め回したがイルカの姿や噴気も見えない。時折フルマカモメ、ウトウ、ウミウが通り過ぎるだけだ。
やがて、岬の岩礁を大きく迂回し、半島の西側(斜里町側)へと回り込む。羅臼海域をテリトリーにしている「たいちょう」は、海底地形を注意深く探りながら慎重に岬の避難港である文吉湾に船を入港させた。
上陸後、さっそく啓吉湾まで徒歩で移動。干潮の時間帯だったので岬の台地に登ることをせず、磯づたいに移動することにする。「啓吉湾で泳ぐ」というのは探検隊の定例行事だったようで、スタッフの大人たちも子どもたちも、同じように海水浴を楽しんでいた。とは言えここは知床岬である。万一の場合に備えて僕は動くことができない。夏の太陽が照りつける浜で、皆が海で遊ぶ様子を見守っているしかなかった。けれども、この時間は決して退屈で無意味ではなかった。岬の空気を呼吸し、岬の空を見上げ、岬の風に吹かれる幸福なひと時だったことに違いはない。
知床半島の西側は夕陽が美しい。夕食後、海岸まで出てみる。オホーツク海に沈む夕陽とその残照が美しかった。しばらくの間、あの太陽は、今頃ウルムチの街をも照らしているのだろう、などと取り留めのない思いに耽った。
夜は船のデッキで寝ることになった。ふと思い立って長い竿で海水をかき混ぜてみる。予想通り、水中で青白い光が生じる。それは竿の先を追うようについてくる。夜光虫だ。見上げると空には星。
風も弱く、かすかに揺れる船上の寝心地は最高だ。夜半、眠りが浅くなった時に何度か目を開けてみた。暗闇に慣れきった網膜に、これまで一度も見たことのないような星空が映った。星が明るすぎて、星座がわからないくらいだ。今になって思い返すと、あれはペガサスの四角形だったと思う。ということはその時刻は明け方近くだろう。
知床岬の船の上で寝ながら見た星たち。一生忘れられない夜になった。
0 件のコメント:
コメントを投稿