2013年1月15日火曜日

ドジョウからウナギが生まれる時代が来るだろうか

東京海洋大学大学院の吉崎悟朗教授が、凍結保存したヤマメの精巣を解凍してニジマスの稚魚に移植したところ、オスとメスの体内でそれぞれ精子と卵が作られ、このオスとメスを交配させた結果、ヤマメの子を生ませることに成功したというニュースが取り上げられていた。  伝えられたことだけでは詳しくはわからないが、増やしたい魚の精巣さえ手に入れば、その近縁種を使って、目的の魚種を増殖させることができる技術の基礎が確立したということなのだろう。今まで誰も実現できなかったことが可能になったという点では素晴らしいことだ。 しかし、気になる点がいくつかある。  第一にこの操作を野生の魚に対して実施することで遺伝的多様性が失われる心配はないのかということだ。  そもそも、この操作によって生まれる稚魚は、遺伝的多様性をもっているのだろうか。  第二に魚類は野生動物であると同時に「水産資源」として産業活動の対象にされている。シロザケの人工ふ化技術によって、野生のサケ科魚類の分布が攪乱された歴史が再び新たな形で繰り返される恐れはないのか。  産学協同の研究の突出で、この技術が拙速に産業に応用される危惧はないか。   報道では、この技術によって絶滅のおそれがある魚種の遺伝子が保存できる点が盛んに強調されている。  日本では、現在河川環境の悪化、外来魚放流、乱獲などによって多くの魚種が絶滅に瀕しているのは事実だ。この方法によれば、オスの精巣を凍結保存しておけばその魚種を復活させることが比較的簡単に可能になる。だから、緊急避難的にこの方法を用いることは有効だし有意義なことだと思われる。 しかし、絶滅に瀕した魚種を救う方法があることで、一つの種の絶滅や一つの水系で特定の種が絶滅することを安直に許容するようになるなら本末転倒であり、論外だ。  さらに、どのような予想外の問題が生じるかわからない部分も多いだろう。生態学的な評価を徹底的に行い、慎重に実用化して欲しいものである。

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