2009年7月6日月曜日

探鯨譚(クジラをさがす話) その7

昔、日本近海郵船で釧路・東京間のフェリーに乗客も乗せいていた時代があった。30時間以上かかった。午前中に釧路港を出港して東京の晴海に着くのは翌日の宵だった。おそらく日本国内最長の船旅の一つだったろう。
 何度かこの航路に乗った。中で、もっとも印象に残っているのは8月中旬、お盆の頃のことだった。三陸沖を航行する船は、これ以上ないような凪の海を進んでいた。暑い日で乗客はほとんどデッキに出て夏の船旅を楽しんでいた。時々イシイルカが併走して目を楽しませてくれる。イルカに飽きると舷側に目を転じる。タチウオが銀色に光って泳いでいるのが見える。そのうちにウミガメが見えてきた。なんとマンボウもいた。信じられないくらい次々と海の生き物が姿を見せる。僕は、海面から目を離すことができなくなって、ずっと見続けていた。
 そして、ついに、船から2~300メートル離れた海面が盛り上がって、大きなクジラが全身を現し、次の瞬間大きな音とともに派手な水しぶきを上げて着水したのだ。ブリーチングと呼ばれている行動である。
 あのクジラは何の種類だったのか。果たして本当に起こった事実なのか、夏の太陽に狂った頭が描いた幻だったのか。今となっては確かめようもない。 

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