2009年7月8日水曜日

探鯨譚(クジラをさがす話) その9


 クブイリチーを作った。
 コンニャクや蒲鉾、肉などを炒め、コンブを加えて煮込んだ沖縄の家庭料理だ。知床概論Ⅲで昆布の勉強に入った。羅臼で採れたコンブが、どのように消費されたかを考えることが目標で、大きな消費地の一つの沖縄でコンブがどのように利用されているかを教えたかった。
 黒板に「クブイリチー」を書くだけなら簡単だ。こんな料理でこんな味なんだ、と実物を突きつけてやるのもたまにはいいだろう。
 生徒たち、美味しそうに食べていた。心底美味しそうに食べている様子を見て、僕の方がビックリした。
 まあ、隣の教室で
「サインシータが…」とやっている隣で、何か食べるというのは、実際よりも美味しく感じることだろう。


探鯨譚(クジラをさがす話)  その9
 今朝も羅臼でもっとも生きの良いホエールウォッチング船「E号」は出港して行った。今にも雨が降り出しそうな空もようだ。今日の航海には、東京から来たお客さんが乗っている。北海道、中でも道東に強い憧れを持ち、何度も訪れてきたが、羅臼に来るのは初めてということだった。もちろんクジラを観に行くのも初めてとのことだ。初めて訪れた者に対しても根室海峡は不機嫌で、濃い霧が海面を覆っていた。
 昼過ぎ、港に帰ってきた彼女に聞いたところ、霧であまり見えなかったが船の間近でマッコウクジラを一頭だけ観ることができたということだった。船長も諦めかけていた時に好条件で一頭観られたということがかなり嬉しかったらしい。興奮気味に話していた。
 クジラも海も気まぐれな自然で、ニンゲンは、自分の都合をいかに主張しても受け付けてもらえない。自然の状況をただ受け入れるしかない。クジラを探して海に出ても、いつでも会えるというわけではない。
 仏教用語だと思うが「寸善尺魔」という言葉ある。「善なるものはわずかで魔なるものの方がずっつ多い」という意味だ。根室海峡のクジラは、「寸鯨尺霧」とでも呼んでいいのではないだろうか。

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