2009年6月10日水曜日

クジラ




 港は濃い霧に包まれていた。
 やはり、と思った。根室海峡は、どうしても僕を霧で迎えたいらしい。この霧が、僕とクジラを隔てる意志のようにも思えて、少々意気が下がるなあ、と感じつつタラップを踏む。今日乗せてもらう船は「民宿まるみ」さんの「アルランⅢ世」だ。
 
 少々沈んだ僕の気持ちにお構いなしで船は港を出た。しばらく走っても霧は晴れない。波も少し高い。風も出てきた。今日もダメかな、と思った時、船の進行方向の霧が薄くなり、青空が見えだした。風も弱くなっている。もう国後島との中間ライン近くだが、ハシボソミズナギドリの群れも集まっている。ひょっとしたら、と期待がわき始める。

 やがて、先にその海域に来ていた知床ネーチャークルーズの「エヴァーグリーン」が北東方向に走り出した。よく見ると左舷前方に噴気が見える。マッコウクジラだ。「アルランⅢ」のエンジンが唸り出す。あっという間に「エヴァーグリーン」と並んだ頃、海面で行こうマッコウクジラのそばまで来ていた。
 久々に見るあのゆったりとした呼吸。人間をまったく無視しているようにゆうゆうと体を休めている。数分間、断続的に噴気を繰り返した後、一瞬腰を高く持ち上げた。
「潜る」と思ったと同時に尾を高く上げてそのクジラは海底に向かって行った。
 5月末、ガリンコ号でミンククジラには会ってきたが、根室海峡のクジラは実に実に久しぶりであった。
 ああ、良かったなあ。

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