2012年10月28日日曜日

原野のシカ

 今朝、5時半に起き、原野に出かけた。  猟期に入ってから、シカたちは、人間の気配に敏感になっている。今朝も500メートル離れた所にいた群れが、こちらに気づいて全速力で逃げ去った。  猟期でない時には10メートルの距離でも悠然としているし、逃げる時もモソモソという感じでゆっくり距離をとる。まったく小憎らしい奴らではあるが、野生で生き残っていくには、そのくらいの敏感さと図々しさが必要なのだろう。  20年以上も昔、バイカル湖畔の小さな集落で過ごした時のことを思い出した。  「明日の朝、シカを見に行きましょう」と言われた。  翌朝、まだ暗いうちに起こされた。  徒歩で、30分くらい山道を登って尾根筋に出た時、案内してくれたアレクセイというロシア人に姿勢を低くして、絶対に話しをするなと言われた。  こちらも緊張して息を殺してじっと待っていた。  やがてアレクセイが黙って向かい側の斜面を指さしたので、よく目を凝らしてみると小さな小さな赤い点が生い茂る樹木の間に微かに見えた。シベリアで見た初めてのアカシカであった。狩猟圧のある地域のシカは、警戒心が強く単に見るだけでもこれほど注意深く行動しなければならないのだなあと感心したものである。  その頃、エゾシカの個体数は現在よりはるかに少なく、山を歩いていてもめったに出会えるものではなかった。  あれから二十数年、これほどまでに個体数が増え、それが農業被害や環境問題になろうとは、想像だにできないことだった。 そのシカたちも、猟期になるとさすがに人間の動きに敏感に反応する。  自らが生き残るためだから当たり前なのだが。  ヒトとシカのあるべき距離というのは、人と自然のあるべき距離そのものだ。

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