2013年2月14日木曜日

300高地を目指して・・・本日の授業

 羅臼高校の裏に標高300メートルほどの山がある。「山」というほどではない。名前もないのだから。もちろん登山道もない。学校から1~2キロの道のりだから簡単に往復できそうに思えるがそうは行かない。人の背丈よりも高いササに覆われていて、ササをかき分けなければ前進できない。その速度、毎分1メートル。10メートルも進めばヘトヘトになる。100メートル進めばぶっ倒れる。  それは世間で「ヤブコギ」と言われる登山法で、自虐嗜愛者の好む行為とされる。  冬の積雪期間になると事情が変わる。  背丈以上あったササ薮を雪が埋め尽くしてくれるのだ。スキーは雪の上の舟のように行きたい場所に僕らを運んでくれる。  高校2年生の「野外観察」という授業は、本来はフィールドにおける各種調査やサンプリングなどを学ぶアカデミックな科目だが、知床のフィールドで実践的に学ぶ以上、野外で安全に行動するための注意やコツを体験的に学ぶことも必要だ。  特に積雪期の体験は今の時期を置いてはできない。そこで今日は特別講師を招いての実習を計画した。  講師は羅臼山岳会会長のSさん。知床の山の隅から隅までを知り尽くしている超ベテランの山男だ。もちろん山スキーの技術も一流だ。  5時間目、生徒玄関前から出発。野球場を左手に見ながら小さな山を越え、いよいよ目的地の300メートル高地に続く斜面に取り付く。Sさんは、初対面の生徒達でも楽について来られるようにペースを調整している。見事なものだ。それは隊列を見れば一目瞭然である。  やがて眼下に前浜が広がる。  流氷が来ているのだが、高度を上げるとその粗密の様子が一目でわかるようになる。南側の尾根に出て、緩い斜面を探るように登り、一気に頂上に達した。それまでほぼ45分。  この山を、この生徒達は毎日のように仰ぎ見て来たことだろう。羅臼高校の過去の卒業生も全員この山を見て高校生活を送っていたと思う。だが、この頂上に立った経験を持つ者はその中に何人いるだろう。  この科目が始まってからここまで登り切った学年もあったが全員そろって頂上に立ったのは初めてのことではないだろうか。  今日の経験は、時間が経ってからじわじわとその意味を噛みしめられる種類のものだと思う。  快晴無風。気温プラス1℃。  天候にも恵まれていた。

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