2009年4月11日土曜日

ヴァイオリンひとり

 いきなり四本の弦が全て音を発した。同時に全身に電流が走るような衝撃を受けた。昨日、「ヴァイオリン ひとり」という小さなコンサートを聴きに行った時のこと。なぜ衝撃を受けたのだろう。
 まず、予想外の豊かな音量が発せられ、その迫力に打たれたこと。無伴奏ソナタ独特のくっきりとした輪郭のメロディが瞬時に空間に広がったこと。そして、複数の弦を同時に弾く重音が惜しげもなく(当たり前だが)満ちあふれたこと、によるものであろうか。

 スイスのチューリッヒ在住の河村典子さんというヴァイオリニストのコンサートだった。バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第一番ト短調とヴァイオリンパルティータ第二番ニ短調の二曲が演奏された。会場は、釧路市内の「ジスイズ」という喫茶店の二階。それほど広いとは言えないスペースだが客席はほぼ満席だった。幸運なことに最前の席に座ることができた。演奏する河村さんまでは2メートルと離れていない。
 バッハのソナタやパルティータは高校生の頃から、CDなどで何度も聴いてきたが、これほど近い場所で聴くのは初めてだった。無伴奏の曲には重音と呼ばれる複数の弦を同時に弾く技法が多用されているのだが、それを間近で聴き、見たのは初めての経験だった。

 河村さんは数々の賞に輝く世界的に活躍する芸術家なのだが、演奏を終えるとヴァイオリンを構えた時の厳しい表情がスッと消えて、その辺りを歩いている気さくな女性のひとり、といった感じだった。
 そして、音楽の演奏は、演奏者、作曲者、聴衆の三者が出会って成り立つ瞬間の芸術であり、そのために尺八の門付けのような感じのひとりのコンサートを2005年から続けてきて100回を目指しているのだそうだ。そして、バッハの曲は、それにもっともふさわしいと思うとのことで、このことを僕はとても嬉しく感じた。
 昨夜のコンサートは59回目だという。

 良い夜だった。
 

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