巨大な獣のチェーンストークが
谷を駆け下りていく
獣は
確かに最後の個体である
この個体の死と
この種の死は
同じ意味を持つ
この谷は
獣たちの息の通り道
一息に海まで駆け下りて
海峡に広がる
ニンゲンの
思惑や打算を無視し打ち砕き
一息に脊梁山脈から駆け下りた風は
この谷を出て
一挙に海面に散開する
散開した風は波を呼び起こし
呼び覚まされた波は向こう岸にある島をバネにして
大波となって帰ってくるのだ
そして
すべてを洗い流す
塩化ナトリウムの溶液に乗り
無気力に運ばれていく物たち
都会への回帰を夢見る眼球
「評判」だけを気にする耳
男の誘いを待ち続ける乳房
「思惑」に毒された大脳
「まさぐる」ことしか知らない指
これらは海峡に流れ出し
巨大なマッコウクジラに飲み込まれる
これらの現象を前にして
生態学者は誠実そうな眼差しで
「海と陸との物質循環」を語り続ける。
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