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海がある、と
どうしてわかる?
それは、
干満を繰り返すから
干満を繰り返すことが
どうしてわかる?
それは、
ある周期をもって押し寄せるから
押し寄せることは
どうしてわかる?
それは、
波の気配によって
そして 時には
風の息によって
ああ、波に抱かれ
風の気配を
いつまでも
いつまでも
感じていたい
巨大な獣のチェーンストークが
谷を駆け下りていく
獣は
確かに最後の個体である
この個体の死と
この種の死は
同じ意味を持つ
この谷は
獣たちの息の通り道
一息に海まで駆け下りて
海峡に広がる
ニンゲンの
思惑や打算を無視し打ち砕き
一息に脊梁山脈から駆け下りた風は
この谷を出て
一挙に海面に散開する
散開した風は波を呼び起こし
呼び覚まされた波は向こう岸にある島をバネにして
大波となって帰ってくるのだ
そして
すべてを洗い流す
塩化ナトリウムの溶液に乗り
無気力に運ばれていく物たち
都会への回帰を夢見る眼球
「評判」だけを気にする耳
男の誘いを待ち続ける乳房
「思惑」に毒された大脳
「まさぐる」ことしか知らない指
これらは海峡に流れ出し
巨大なマッコウクジラに飲み込まれる
これらの現象を前にして
生態学者は誠実そうな眼差しで
「海と陸との物質循環」を語り続ける。

空中の黒猫(習作)
空中を黒猫が漂っている
ブラブラ
単振動する黒猫
脂身を狙って
単振動する黒猫
脂身は金網に囚われていて
窮屈な隙間を出ることができなかったのだが
脂身を狙って
単振動する黒猫
金網は藤棚から
ぶら下げられ
黒猫の跳躍を誘った
爪一本でぶらさがり
単振動する黒猫
北西の風に吹かれて
単振動する黒猫
僅かな脂身のために
単振動する黒猫
それは
黒猫の揶揄だったのかも知れない
プレカリアートを
演じてみせた黒猫は
脂身をせしめて
黙って立ち去ったけれども