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2009年3月1日日曜日

内なる海への賛歌

 海がある、と
 どうしてわかる?
 それは、
 干満を繰り返すから

 干満を繰り返すことが
 どうしてわかる?
 それは、
 ある周期をもって押し寄せるから

  押し寄せることは
 どうしてわかる?
 それは、
 波の気配によって
 そして 時には
 風の息によって

 ああ、波に抱かれ
 風の気配を
 いつまでも
 いつまでも
 感じていたい

2009年1月5日月曜日

知西別の谷で

巨大な獣のチェーンストークが
谷を駆け下りていく
獣は
確かに最後の個体である
この個体の死と
この種の死は
同じ意味を持つ

この谷は
獣たちの息の通り道
一息に海まで駆け下りて
海峡に広がる
ニンゲンの
思惑や打算を無視し打ち砕き
一息に脊梁山脈から駆け下りた風は
この谷を出て
一挙に海面に散開する

散開した風は波を呼び起こし
呼び覚まされた波は向こう岸にある島をバネにして
大波となって帰ってくるのだ

そして
すべてを洗い流す

塩化ナトリウムの溶液に乗り
無気力に運ばれていく物たち
都会への回帰を夢見る眼球
「評判」だけを気にする耳
男の誘いを待ち続ける乳房
「思惑」に毒された大脳
「まさぐる」ことしか知らない指

これらは海峡に流れ出し
巨大なマッコウクジラに飲み込まれる
これらの現象を前にして
生態学者は誠実そうな眼差しで
「海と陸との物質循環」を語り続ける。

2009年1月3日土曜日

空中の黒猫


   空中の黒猫(習作)

 空中を黒猫が漂っている
 ブラブラ

 単振動する黒猫
 脂身を狙って
 単振動する黒猫
 脂身は金網に囚われていて
 窮屈な隙間を出ることができなかったのだが
 脂身を狙って
 単振動する黒猫

 金網は藤棚から
 ぶら下げられ
 黒猫の跳躍を誘った

 爪一本でぶらさがり
 単振動する黒猫
 北西の風に吹かれて
  単振動する黒猫
 僅かな脂身のために
 単振動する黒猫

 それは
 黒猫の揶揄だったのかも知れない
 プレカリアートを
 演じてみせた黒猫は

  脂身をせしめて
 黙って立ち去ったけれども