2012年3月18日日曜日

流氷の中の塩分  流氷百話 21/100

今夜は、神戸の宿にいる。
 神戸は、ずっと昔、あの地震の前に来たことがあった。この街を初めて訪れたとき、不思議な懐かしさを覚えた。到着したのは夜だった。予約した宿を探して坂道を登った時のことである。
 山があり、坂道を下りれば港に行き着くというところが僕の生まれた街と共通していたせいだと思う。
 震災で、その街並みが失われてしまったことが悲しかった。
 今はもう、震災の痕跡は、ほとんど目につかない。だが、肉親を失ったり、大けがを負ったりした、心身の傷を抱えている人々は、今もたくさん暮らしておられることだろう。港で揺れる灯りを見ながら、そんなことを思った。

 流氷の中の塩分  流氷百話 21/100
 ひとつ訂正しなければならないことがある。流氷百話の第四回、「五感で確かめる事の大切さ」の中で、「流氷は凍結するときに、そこに含まれている塩分を氷の外に押し出してしまうからしょっぱくない」と書いた。
 舐めてみて、塩辛く感じないのは事実だが、決して塩分はゼロではない。北海道立オホーツク流氷科学センターのホームページによれば、1kgの氷に10~12gの塩分が含まれているのだそうだ。普通の海水に含まれている塩分は、1kg中31~33gだからおよそその三分の一と言うことになる。
 実際に流氷を舐めてみた結果、塩辛さは感じなかった経験から、「塩分は無い」と勝手に思い込んでいた。僕の誤りである。訂正させて頂きたい。

 この割合は、流氷中の塩分は1%より若干濃いことを示している。この数値は、ヒトなどほ乳類の体液の濃度にほぼ等しい。生理学的食塩水の濃度は0.9%だと習った覚えがあることでしょう。
 1%の塩分濃度を「塩辛い」と感じるか否かは微妙なところだが、おそらく微かな塩辛さは感じ取れるのでは、ないだろうか。

 では、舐めてみた時、どうして味を感じとれなかったのか。いくつかの理由が考えられる。
 第一に、温度が低くて塩辛さを感じる閾値が上がっていた、というのはどうだろう?冷たいものの味は感じにくいということはないだろうか。
 第二の可能性は、流氷の表面に雪が降り積もっており、舐めた部分が流氷本体ではなく陸上の雪が固まった氷と同じものだった可能性はないだろうか。

 厳密に確かめるためには、明らかな流氷を採取する。表面の部分を取り除き、できるだけ中心に近い部分の氷を取り出して、加熱し水分を飛ばして蒸発残留物の質量を正確に計測する、という手順で作業しなければならない。
 たかだか塩の濃度を測るだけでもこれだけの緻密さが必要だ。

 放射性物質の定量は、社会的に大きな影響がある。慎重で正確な定量が求められるだろう。それに加えて、結果をありのままの伝える誠実さが不可欠だ。

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