2012年3月22日木曜日

小短歌集 三月の黒猫


自堕落もたまにはいいと黒猫がシッポで誘う三月の夜

「接続を切っていいか」とPCに聞き返されて、不安高まる
界面の滲むあたりをシロカモメ歪む時空に航跡の揺れ
人間とはいったい何か。問いかけが胸 往き来するリアス海岸
直実(なおざね)が鎧掛けたという松も時の重さが枝を押し下げ
その花を臘梅と教え、手に取りて香りを利いて微笑んだきみ

地の果てに変わりなけれど紀伊半島 暖かく明るく穏やかな昼
電線にイソヒヨドリのとまりいる最南端の乗り換えの駅
車内にも海の香りのたちこめる紀勢本線ローカル電車
乗る人がみな鯨捕りに見えてくる太地の町へ行く列車内
しんとしたクジラの町の昼下がり町営バスの中も静まり

はるかなる北の羊を称えつつ 神戸の夜は静かに更ける
いま少し原野の暗さ背に負いて ここでこの世の変遷を見ん
暗闇の底よりわれを招く声、原野を生きる場所と定めん
ヒシクイの低空飛行雪原に春の兆しを探るがごとく

捨てられし仔猫のごとき娘いて なす術もく眺めるわれは
君がいて君を見つめる僕がいて 僕の生まれた町の通りで
君が立つその街角に立ちすくみ 思い迷った若き日の僕も
海の香がかすかに漂う坂道は、少し悲しく少し懐かし

われもまた共に行きたし白鳥と いつわりのない眠れる大地に
早々に北へと帰れ白鳥よ この国の穢れしみつかぬ間に
崩れゆく国から逃れ去るごとく 白鳥の群れ次々に飛ぶ

種を越えて伝わるもののあるごとく 黒猫われを離れざりけり

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