2011年4月1日金曜日

レティクル(照準線)の向こうに見える知床

息を止め、静かに接眼レンズに目を近づける。
 十字のレティクル(照準線)の中心と左前胸部を重ね、そっと握るようにトリガーを引く。轟音とともに強烈な反動が生じる。肩に食い込む銃床の重みを受け止めつつフォアエンドを前後に動かし、次弾を装填する。装填しながらスコープを覗くとエゾシカが転がり落ち、途中で大きくバウンドしてコンクリートの擁壁の上で止まるのが見えた。

 2月と3月の毎週末、羅臼町内でエゾシカの有害駆除が行われてきた。
 そして、月末の3日間は新人ハンター研修として、ベテランの指導を受けながら駆除の実習をさせてもらうことになった。
 「本番」の駆除の場面では、少しでも多くのシカを捕獲することが目的なので、新人ハンターはなかなか積極的に発砲できない。どうしても先輩に譲ることが多い。
 そこで猟友会の計らいで、期間が終わる直前の三日間を新人優先の機会を与えてもらえたというわけである。
 この期間は、ベテランの助言を受けつつ、堂々と初弾を撃たせてもらえる。

 北海道のエゾシカの個体数は、異常な増加の後、なかなか減ることがなく、知床でも希少植物や樹皮への食害が激しく、大きな問題になっている。シカを補食するオオカミをニンゲンが絶滅させてしまったいま、エゾシカの天敵はいなくなってしまった。
 ハンターが天敵のニッチェ(生態的地位)に就くことは不可能だが、少しでも増加を食い止められれば、との狙いで有害駆除が行われている。
 厳しい寒さが緩み、草も人々も、そして、シカたちもホッとしてのびのびと時をおくろうというこの時期、シカたちに銃を向けるのは少々気が引けないわけではない。
 だが、知床の自然をなんとか良い状態に保ちたいという思いも強くある。
 こんなジレンマを抱えつつスコープを覗くのである。

 これも、ニンゲンが自然界でしたい放題の自分勝手な行いをしまくったツケである。いわば先人の愚行の尻ぬぐいだ。

 髪の毛の先ほどの煩わしさ除くために電気に頼り、無駄遣いし放題だったツケを将来の子孫に支払わせるなんて、どうしても止めてもらいたい。

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